春嵐に翻弄されて… 〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。


 
 



     



今年はまま平年並みの足並みで桜も訪れ。
時々前の季節の名残のような冴えた風という不意打ちを受けつつも、
昼の気温がぐんぐんと上がることで
新しい季節の進軍がもはや止まらぬらしいと人々が安堵する。
時折吹き抜ける強い風に、まだまだ散るのは早い桜の花びらが届くのを、
ちょっと可哀想ですねなんてお友達と話しておれば、

「お待たせしました。」

今日は使われない二年生の教室。
荷物を置きたいのでとシスターにお願いして鍵を預かり、
外回りへ出て居た白百合さんが戻ってきた。

「大丈夫でしたか? 警備のおじさん。」
「ええ。いつものおじさんだったから、久蔵殿のお顔を覚えてらして。」

今日は入学式なので父兄も来賓も訪のうており、
そんな人々への不穏な何かが起きては剣呑と、警備の人員もさりげなく増員されている。
とはいえ、正門の出入りを見守る顔ぶれは平生のお人たちが担当しているらしく。

「外出中の名簿に名前がなくとも、
 裏の茂みの破れから出てしまわれたというこじつけ、信用してくださいました。」

そうと言い、ささどうぞと後に連れていた人物を教室内へと促せば、

「…。」

平八の隣、面白くなさそうに椅子に腰かけていた紅ばらさんが詰まらなさそうな顔を向け、
その顔や風貌をそのまま写したような人物が、青基調のトレーニングウェア姿で入ってくる。
同じ空間という至近に同坐しているのを見比べると、

「…そうですね似てはいますが、やっぱり判るもんですよね。」

彼女らには“違い”は歴然としていて。
佇まいの音無しの構えは故意か習慣からか、
それにより気性の発露が抑えられているらしい彼の人は、
それでも所謂 線の強靭さが感じられ、ああ男の子なんだというのがありあり判る。
だが、一人だけ別の制服姿だった少女は“え?”と意外そうな声を出し、
やはりそっくりなのにと不思議そう。
そんな戸惑いを抱きつつも、彼女には事情が通じている顔見知りな人だからだろう、
歩を進めて傍らへと身を進め、
相手の青年も細い顎を短く引いて、彼女の駆け寄るのを見やりつつ、相手の無事を確かめたよう。
そう、紅ばらさんの体操服に着替えて此処へ導かれた彼こそは、
開校以来は大仰ながら、
許可のないまま学園内へ踏み込んだ非常に稀有な男子学生、島田久蔵さんで。

 『他校から見学にいらした方ですの。』

まずは、少女らに安全な“シェルター”である学内へ
予定外の訪問者であるお嬢さんを匿わねばならぬという当然の運びを、
推察であっさりと導き出した三華様がた。
自分から何とか説明をと思って緊張していたらしいお嬢さんが呆気にとられていたのへ

 『…どうしてそれを。』
 『そのくらいの作為はね、見抜けますとも。』

くすすと笑ったひなげしさんによれば、

 だって、久蔵さんにそっくりな久蔵殿がいる時間帯にちょうど
 あなたが来合わせるなんて、ただの偶然とは思えない。

少なくとも自分たちがやや風変わりな女子高生だと知ってる人が企んだ仕儀だろうと、
そこまで見抜いているらしく。
現に彼女らは一向に先生への通報をしちゃあいない。
例えば、すでに何かと長つきの立場にいることに馴染みのある、
しっかり者なお嬢様だったとしても、
入学式という特別な日に起きたこのようなイレギュラーな事態、
どう対処すればいいのでしょうかと多少は戸惑うものだろうし、
戸惑わぬならならで、生徒にすぎない自分の裁量の範囲外だと判断して、
やはり大人への報告に運んでいるはず。

 『ですが、アタシたちはちょっぴり毛色の違う生徒なので。』

白百合さんがはんなりと笑いつつ、
口にしたのはやっぱり“私たち規格外なもんで”と肯定するよな言い回しで。
ついつい自分たちで何とか出来ることなんじゃないかなぁなんて
勝手なことを考えちゃうんですよね、
それも“ワケあり”ぽいことであればあるほど、と。
しれっと言ってから、受付のあれこれをてきぱきと片づけてしまい。
本校舎へ彼女を伴って堂々と向かうと、
正面玄関わきの来賓用クロークにいらしたシスターへ、
先の一言で他所の制服を着たお嬢さんを紹介してしまう。

 『引率の先生とはぐれてしまったそうで、
  彼女だけ先にお越しになられたのですが。』

 『え? あ、でも…。』

まだ年若いシスターが戸惑ったようなお顔になるのも当然で、
そのような予定なぞないからに他ならず。
申し送りがないことだと眉を寄せてしまわれたところへ、

 『あらあら、では ○○先生ッたら、
  こちらへの連絡をうっかり忘れてしまったのかもですね。』

いえね、○○せんせえとおっしゃる方、
ちょっぴりおっちょこちょいなところがお有りだとかで。
もしかして承諾を取ったおつもりで段取りを忘れていらしたのかもしれないと。
そこが心配で心配でなんておっしゃるものですから、
私どもがついついお節介をしてお連れしてしまったのです…なぞと。
しゃあしゃあと言ってのける恐ろしさ。
実際、例え不備があった運びであれ、未成年の少女を無下に放り出すわけにもいかず、

 『それは心細かったことでしょうね。』

シスターはたいそう同情してくださり、

 連絡先は判りますか?

 ええ学校の方は其方も入学式でバタバタしておいでなそうなので、
 何度も何度もお電話を掛けてみて繋がるのを待ちますわ、と。

いかにも“手すきなのでそのくらいは私どもが”と持ってゆく手際の鮮やかさよ。
実際、今日本日登校なさっておいでの職員やシスターの皆様はそれぞれに忙しい身、
そこへこんな突発事態が振りかかろうなんて思ってもみないだろうから、
この申し出はそのまますんなりと受け入れられて。
控室に使いなさいねと空き教室の鍵もあずかることが出来たという次第。
それから次に取った手が、
彼女の本来の“連れ”である島田くんへの手引きだ。
たとえ父や兄という血縁者でも
前もっての連絡なしには入れないとする由緒正しき男子禁制の花園へ、
彼女ら自身も面識はない男子を招こうというのだから、
え?え?と迷子のお嬢さんは目が回りそうなお顔をするばかりだったのへ、

 『スマホや携帯をお持ちじゃないのも事情にかかわりのあることなのでしょうね。』
 『…はい。』

実はスマホは結構な身分証にもなるツール。
オーナーとして登録されたあれこれは、
基本、通信法というお堅い法の下へ登録されるほどの確たる代物なので、
素性身分の確認は勿論のこと、手段への心得さえあれば、
あちこちへ問い合わせて成りすましさえ可能というからおっかない。
そういった説明をされたうえで、連れの彼が預かっているのだそうで。
それと勝手にあちこちへ連絡を取らぬようにというのも言い含められていると言い。

 “こりゃ随分と深いワケありな人なのかな。”

いくら同世代の少女が相手だとはいえ、
言い分をそのまま丸のみにするのが一番危険というのは、
それこそ基本中の基本だし、さすがにそのくらいは心得てもいる彼女らだったが。
奥歯が噛み合わないくらい かたかた震えながら受付までやってきた様子といい、
今だって、何の気なし肩や腕へ触れてしまうと震えあがっている様子は、
それがもし演技なら もっと巧みな運びを練れただろう人材の無駄遣いといえて。

 “それより何より、もう身元は判明しておりますし。”

先程島田久蔵さんの身元を探る検索を掛けつつ、
ついでにこちらのお嬢さんの素性も探っておいた平八で。
それによればこの制服はフェイクで、実は別の区の私立高校に通っておいでで、
もしかせずとも親御の事情でこんなややこしい待遇になっているということまで把握済み。

 「私どものような年端のゆかない婦女子を頼るとは、
  余程に切羽詰っているか、逆に大した事態ではないからなのか。
  一体どちらなのでしょうね。」

柔らかそうな金色のくせっ毛もふわふわと、
毅然とした表情を載せた端正なお顔、
優雅に縁どっておいでの結構な美人さんだが。
平八からのやや挑発的な物言いへ、ちらりと視線を動かすと、
どの少女がリーダー格なのかまでは確かめぬままに、口角のはっきりとした凛々しい口許を開く。

 「回りくどい話はよそう。
  貴女たちがどれほど頼もしいかは知っている。
  そこで図々しくも足場に利用させていただくことにした。」

 「足場。」
 「下に見ているのではない。何をするにも大事な基盤だ。」

腹に力を入れればどうかは知らぬが、
隠密裏にここに居るということへのわきまえからか さほど大きい声を張るでもなく、
静かに語り始めた青年は、
当たり前のことながら…姿はともかく声は随分と久蔵殿のそれとは違っておいでで。

 “声を出さず会釈だけでいてと注意して正解だったなぁ。”

校門を通過した折、警備員のおじさまに正体がばれぬよう注意したこと、
大正解だったなぁと今頃ホッとし。
ということは、自分も少なからずは彼と久蔵とが似ていると、
思ってたってことかなぁなんて、
小首を傾げる七郎次だったりしたのである。




 to be continued. (17.04.13.〜)





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 *ほら長い。(笑)
  こんな初手からこうまでの理屈言いです。
  何が起きててどうする所存か、
  次の章でも珍しくよく喋る次男坊さんですが、そこはご容赦。

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